マーケティング調査から考えるパワーカップル向け注文住宅営業の成功戦略

夫婦共働きでともに高収入の世帯を指す「パワーカップル」は、消費や投資のけん引役として多くの業界から近年注目されています。
住宅業界にとっても重要な見込み顧客層です。各社が自主的に実施、公表しているマーケティング調査報告のなかには、注文住宅の購入意向も強いことを示すものも見受けられます。
この記事ではさまざまなマーケティング調査の報告を参照しながら、パワーカップルを狙った注文住宅営業の成功戦略を考察していきます。
パワーカップルとは?
まずは「パワーカップル」の基本的な定義を押さえておきましょう。
2010年代の中ごろから、マーケティングの話題で「パワーカップル」という言葉で表される属性の世帯がよく語られるようになってきました。夫婦共働きでともに高収入の世帯を指す言葉で、消費や投資のけん引役として多くの業界から注目されています。
住宅業界からも重要な見込み顧客層として注目されており、各社がパワーカップルを対象に実施したさまざまなマーケティング調査の報告も出回っています。
大いに参考にしたいところですが、調査によってパワーカップルとみなす対象者の抽出条件や、パワーカップルとみなした対象者と比較する対象者の条件も異なり、パワーカップルの特徴として考察されている内容がどれだけ妥当で重視するべきか、注意深く検討する必要があります。
パワーカップルのライフスタイル
パワーカップルをターゲットに営業やマーケティングを行うためには、住宅購入の検討行動に限らずパワーカップルの人物像について幅広く理解しておくほうがよいでしょう。思わぬことが集客のヒントになるかもしれません。
ニッセイ基礎研究所が国の統計資料を基にまとめている報告によると、パワーカップルの世帯数は近年増加傾向にあり、夫婦ともに年収700万円以上の世帯数では2024年に45万世帯に達したそうです。そのうち子どものいる世帯は3分の2を占めており、パワーカップルは子育てをしながら働く人の多い属性であるといえます。

(出典:ニッセイ基礎研究所『パワーカップル世帯の動向-2024年で45万世帯に増加、うち7割は子のいるパワーファミリー』)
(株)大京と(株)穴吹工務店が共同で2024年8月に実施した調査では、マンション購入意向のある1都3県在住者を対象に、パワーカップルの価値観の特徴が考察されています。なおこの調査では「世帯年収1,200万円以上の共働きの20代~60代男女」がパワーカップルの抽出条件とされています。
アンケートでは「人生を豊かにするために大切にしたいもの」や「暮らしの中で大切にしたい言葉」を質問しており、パワーカップルほど大切にする傾向の強いものとして「家族と一緒に過ごす時間」や「品格」「上質」といった言葉が挙げられています。


この調査では「理想の自己イメージ」を聞いていることも興味深いポイントです。パワーカップルでは「信頼できる、頼りがいがある」「知的、賢い、優秀」の選択肢を選んだ回答者が多く、自身がビジネスパーソンとして優秀であること、また周りからそう思われることを重視する人が多いと考えられます。

(出典:プレスリリース (株)大京、(株)穴吹工務店『パワーカップル500人に聞く、住まいと暮らしの価値観調査』)
パワーカップルは住まいに機能性・合理性を求める
(株)大京と(株)穴吹工務店の共同調査では、パワーカップルが「次の住まい選び」で重視するポイントも聞かれています。回答者数上位の項目中「広さや間取り、部屋数」「日当たり、向き」「最寄り駅までの距離」「最寄り駅の利便性」は「価格」を上回る人数が選んでおり、パワーカップルは価格以上に住まいの機能性を重視する人が多いと考えられます。

(出典:プレスリリース (株)大京、(株)穴吹工務店『パワーカップル500人に聞く、住まいと暮らしの価値観調査』)
この特徴はグローバルベイス(株)が2025年6月に実施した調査でも示されており、住宅購入時に重視するポイントを3つまで尋ねた結果で、パワーカップルと定義されている回答者(世帯年収1,400 万円以上の夫婦)のうち「立地(周辺環境)」「駅からの距離」を選んだ回答者の数は「価格」を選んだ回答者の数を上回っています。

なおこの調査では、パワーカップルと定義されている回答者のうち3割以上が注文住宅の購入意向があると回答しており、比較対象である「ミドル層」(世帯年収600~1,000万円)のなかで注文住宅の購入意向があると回答した人の割合を大きく上回っていることも注目に値するポイントです。

(出典:グローバルベイス(株)『【パワーカップルの住まい選びに関する調査】住宅購入時に重視するポイントは「立地」・「駅距離」。』)
リノベる(株)が2024年8月に行った調査では、パワーカップルの支出に対する意識や現在の住居への不満を聞かれています。回答によると、パワーカップルでは高額な商材に支出をする際に「自分の価値観に合うもの」「合理的で効率的なもの」「SDGsや環境に配慮しているもの」であることを重視する人が多いことが示されています。

現在の住居への不満では「間取り、レイアウトの使い勝手が悪い」「部屋数が足りない」「収納量が足りない」を選んだ回答者が多く、やはりパワーカップルは住まいに機能性、合理性を求める傾向が強いといえるでしょう。
なおこの調査におけるパワーカップルの抽出条件は、配偶者との合計年収1,400万円以上としているようです。

パワーカップルが注文住宅に求めるもの
少し古いですが、注文住宅を建てたパワーカップルに焦点を当てる調査結果が2019年11月に(株)リクルート住まいカンパニー(現・(株)リクルート)から発表されており、内容も詳しいため参考になります。
この調査では「世帯主および配偶者の年収がいずれも400万円以上」の回答者と「夫婦とも一定の年収があり」かつ「世帯年収が1,000万円以上」の回答者がパワーカップルとされています。
注文住宅を検討した時期を尋ねる設問では、パワーカップルでは結婚を機に検討した人が多く、出産を機に検討した人は比較的少ないことが示されています。パワーカップル以外の人と比べて、ライフステージのより早い段階からマイホームの検討を始める傾向があるようです。

購入する住宅の種類として注文住宅を選んだ決め手も聞いており、パワーカップルの回答者数上位の項目には設備や間取り、立地、デザインの自由度が並んでいます。
またパワーカップル以外の人と比べると、自動車の保有、ペットの飼育、土地の資産価値を考慮したとの回答者が特徴的に多くなっています。

立地の重視ポイントも聞かれており、パワーカップルの回答者数上位項目には治安の良さ、小学校との距離、最寄駅からの距離が並ぶほか、パワーカップル以外の人と比べると自治体の保育園への入りやすさを選んだ回答者が特徴的に多くなっています。

注文住宅の造りに関する重視ポイントでは、パワーカップルの回答者数上位項目には耐震性、間取り、断熱性・気密性が並んでいます。パワーカップル以外の人と比べると環境・省エネルギー性能に関する項目を選んだ回答者が特徴的に多く、入居後のランニングコストも考慮されやすい傾向があると考えられます。

(出典:(株)リクルート住まいカンパニー『2019年 注文住宅動向・トレンド調査』)
パワーカップルを狙った営業・マーケティング手法
ここまで参照してきた各調査から読み取れるパワーカップルの特徴を踏まえて、営業およびマーケティングの手法を考えていきましょう。
カタログやパンフレットには、住宅の機能性が最大限に伝わる写真や客観的数値指標を掲載することが効果的であると思われます。合理的な検討の結果として選んだ、という納得感を持ってもらうことが大事です。
さらにSNSの投稿内容も含めて、子育てにおける注文住宅のメリットを前面に打ち出すとよいでしょう。営業エリアが特化しているなら、自治体による子育て支援事業の情報も併せて伝えられるとより効果的です。
パワーカップルは夫婦ともに働いていることを踏まえると、職場の同僚などへの紹介も狙えるかもしれません。リファラルマーケティングの効果を期待できる顧客層であるともいえます。
また資産形成に関心が高く、知識欲も比較的強い人々でもあります。投資や資産運用のセミナーなども、集客方法として有効でしょう。
記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:パワーカップルってどんな人たち?
A:共働きでともに高収入の夫婦で、消費や投資のけん引役としてさまざまな業界から近年注目されています。その多くは子育て世帯でもあり、家族との時間を大切にしつつ、自身が知的で優秀なビジネスパーソンであることや、上質な暮らしにこだわりを持つ人が多いようです。
Q:パワーカップルの住宅選びの特徴は?
A:住まいの種類として注文住宅が比較的選ばれやすいことを示す調査報告もあります。結婚を機に検討を始め、住宅の機能性・合理性を重視し、入居後のランニングコストも考慮する人が多いようです。
Q:パワーカップルを狙った営業・マーケティングの効果的な手法は?
A:住宅の機能性を客観的指標とともに示しましょう。合理的な検討の結果として選んだ、という納得感を持ってもらうことが重要です。営業エリア内の自治体の子育て支援制度を併せて発信するなど、人物像の特徴に沿った施策を打ちましょう。
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執筆者
杉山 啓(IMASSA認定マーケティング実務士、行政書士、統計調査士)
インターネット行動履歴データに基づくマーケティング支援を行うベンチャー企業に勤めていた際に、住宅、情報通信、出版、化粧品など多岐にわたる業界の大手企業を対象とするコンサルティングや法人営業に従事した。
2018年にマーケティング・ビジネス実務検定A級(IMASSA認定マーケティング実務士)、統計調査士、統計検定2級に合格。Uターン後は愛媛県内の道の駅でEC運営を担当し、月間のサイト訪問者数を前年比約2倍、売上を前年比約1.3倍に増やした経験ももつほか、非営利で哲学対話・哲学カフェのワークショップも継続的に主宰している。2024年に行政書士に登録し、企業間の契約書類作成等の法律業務も担う。



