工事現場での熱中症・暑さ対策は重要!知っておくべき暑さ指数(WBGT)と対処法について徹底解説
屋外での作業が多くなる建設業は、特に熱中症のリスクが高い職種とされています。場合によっては、死亡や後遺障害といった重篤な事態に発展する可能性もあるため、従業員の安全を守るためには十分な対策が必要です。
今回は、熱中症対策で知っておくべき基礎知識として、発生するメカニズムや主な症状、暑さ指数「WBGT」について解説します。そのうえで、工事現場での熱中症を防ぐための具体的な対処法について見ていきましょう。
目次[非表示]
- 1.建設業における熱中症の発生状況
- 2.熱中症が発生するメカニズムと主な症状
- 2.1.熱中症が発生するメカニズム
- 2.2.熱中症の主な症状
- 3.知っておくべき暑さ指数「WBGT」とは
- 3.1.暑さ指数(WBGT)とは
- 3.2.建設業における指数の捉え方
- 4.熱中症の基本的な対策と便利アイテム
- 4.1.熱中症の基本対策
- 4.2.熱中症予防に役立つアイテム
- 5.熱中症が疑われる場合の応急処置
- 5.1.涼しい環境への避難
- 5.2.脱衣・冷却
- 5.3.水分・塩分補給
- 5.4.医療機関への連絡・搬送
建設業における熱中症の発生状況
厚生労働省の『令和4年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)』によれば、2022年における熱中症での死傷者(死亡者数・4日以上の休業に至った傷病者数)は827人とされています。このうちの21%が建設業で発生しており、業種別ではもっとも多い数値です。
また、熱中症による死亡者数は全体で30人となっており、そのうち半数近くにあたる14人は建設業で発生しています。過去5年の統計を見ても、建設業における熱中症の死傷災害は深刻な状況が続いており、傷病者数・死亡者数ともに改善の兆しは見られていません。
このように、業務中の熱中症は建築業界全体としての大きな課題になっています。
熱中症が発生するメカニズムと主な症状
熱中症対策を行ううえでは、どのような経緯で起こるのかを正しく理解しておく必要があります。ここではまず、熱中症が起こる原因や主な症状について確認しておきましょう。
熱中症が発生するメカニズム
熱中症は高温多湿な外部環境の影響により、体内に熱がこもることで発生するさまざまな症状の総称です。平常時では、体温が上がったときに汗をかいて気化熱として放出したり、体表面から熱放散したりして体温を調節しています。
しかし、高温多湿な環境下での長時間の活動や激しい運動をすると、次第に体の水分や塩分が減っていきます。その状態が続くと、汗の蒸発による気化熱が発生せず、蓄積された熱をうまく放出できなくなり、血流の悪化によって体表面からの熱放散も起こりにくくなって、体温が異常値まで一気に上昇してしまうのです。
熱中症の主な症状
人体の重要な臓器は、平熱である37℃以下でもっとも効率的に機能するようにできているため、それ以上に体温が上昇するにつれて臓器の働きが鈍っていきます。さらに、水分の減少によって脳や内臓、筋肉に血液が行き渡らなくなり、以下のような症状が発生します。
■熱中症の重症度分類による主な症状
重症度 |
症状 |
1度 |
・めまい、立ちくらみ |
2度 |
・頭痛 |
3度 |
・意識障害 |
重症度が高い場合は、死亡や後遺症などの重篤なケースにつながる可能性もあります。主な後遺症としては、「脳などの中枢神経障害」「長期継続的(数週間から場合によっては数年間)な頭痛」が挙げられ、その後の生活にも大きな影響を与えるおそれがあるので注意が必要です。
知っておくべき暑さ指数「WBGT」とは
先ほども参照した厚生労働省の『令和4年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)』によれば、熱中症による死亡災害事例の多くで、適切な労働衛生教育や緊急時の措置が欠けていたことが公表されています。なかでも、「暑さ指数(WBGT)」の認識不足が熱中症の発生や重症化を招いているとされており、企業や管理者による正しい理解が必要と訴えられています。
暑さ指数(WBGT)とは
WBGTとは、気温に加えて、湿度、風速、輻射(放射)熱を考慮した温度の指標であり、端的に言えば「熱中症のなりやすさ」を示した数値です。指数は乾球温度計、湿球温度計、黒球温度計を使って計算されており、気温が基準値を超える場合には熱中症のリスクが高くなると判断できます。
建設業における指数の捉え方
WBGTの基準値は温度(℃)の単位を用いて示されますが、単純な気温とは捉え方が異なります。同じ気温でも日常生活を送る場合と運動をする場合とではリスクが異なるように、基準値も動作の強度に応じて変化します。
たとえば、厚生労働省や環境省が公表している資料では、身体作業の強度に応じた基準値が以下のように示されています。
■身体作業の強度に応じたWBGT基準値
作業強度(代謝率レベル)による区分 |
身体作業の例 |
WBGT基準値(℃) |
|
熱に順化している人(※) |
熱に順化していない人(※) |
||
0:安静 |
・安静 |
33 |
32 |
1:低代謝率 |
・楽な座位 |
30 |
29 |
2:中程度代謝率 |
・継続した頭と腕の作業(釘打ち、盛土) |
28 |
26 |
3:高代謝率 |
・重い材料の運搬 |
・気流を感じないとき:25 |
・気流を感じないとき:22 |
4:極高代謝率 |
・おのを振るう |
・気流を感じないとき:23 |
・気流を感じないとき:18 |
※熱に順化していない人:作業の前の週に毎日熱にさらされていなかった人
このように、基準値は「作業の強度が高い」「対象者が熱に順化していない」「気流を感じない」ときほど低くなります。また、あくまで目安ではありますが、建設業においては、暑さ指数を次のように捉えることができます。
■建設業における暑さ指数ごとの対策例
|
建設業においては、指数が31以上である場合は、できるだけ作業を中断するのが望ましいとされます。反対に21未満である場合は熱中症のリスクがそれほど高くないと判断できます。
ただし、前述のように作業者の状態や具体的な作業内容によっても異なるため、工事現場などで適用する際には細かな配慮が必要です。
熱中症の基本的な対策と便利アイテム
作業現場においては、管理者や責任者だけでなく、作業者も含めた全員が熱中症対策を正しく把握しておく必要があります。ここでは、熱中症の基本的な対策と役立つアイテムをご紹介します。
熱中症の基本対策
熱中症の基本対策としては、次のようなものが挙げられます。
■熱中症の基本対策
|
まずは、こまめに作業休止時間や休憩時間をとり、高温多湿な環境での作業が連続しないように注意することが大切です。場合によっては出勤時刻を前倒しし、日中での作業負荷が軽減されるように工夫するのもよいでしょう。
水分・塩分補給については、自覚症状の有無にかかわらず、作業者全員が定期的に摂取する機会を設けることが大切です。塩分補給においては、塩分を含む飴やタブレットなども常備し、手軽に摂取しやすい環境を整えましょう。
そのうえで、休憩場所の整備や自販機の設置、作業場所での日よけテントやミスト扇風機の設置など、作業環境の改善を図り、温度が上がらないようにすることも重要です。また、チェックシートなどを活用して、作業者全員の健康管理を行うことも対策となります。
熱に順化していない人や体調が優れない人を把握した場合は、こまめな休憩の確保や負荷の小さな作業の割り当てを行い、熱中症のリスクを回避しましょう。
熱中症予防に役立つアイテム
熱中症を予防するには、体内の熱を逃がしたり、体温の上昇を防いだりするグッズを活用するのも有効です。
■熱中症予防に役立つアイテム
|
工事現場で用いるアイテムは、体温の上昇を防ぐだけでなく、「身体作業を妨げない」ことも重要な機能です。クールタオルや冷却スプレーは、比較的安価かつ手軽に取り入れられるのがメリットであり、多くの現場で用いられています。
また、ファンが装着された「空調服」や保冷剤を仕込める「アイスベスト・フリーザーベスト」などは、身に着けるだけで効果を発揮するので便利です。コンプレッションウェアやコンプレッションパンツは、吸湿性・速乾性に優れたコンプレッション素材が用いられているのが特徴であり、気化熱による冷却効果を高めます。
ヘルメットインナーはヘルメットに仕込むコンプレッション素材のことであり、頭部の蒸れや温度上昇を防ぐ効果があります。
熱中症が疑われる場合の応急処置
作業中に熱中症の症状が見られたときには、速やかに応急処置を行い、重症化を防ぐ必要があります。いざ発症したときに慌てないためにも、日ごろから必要な対応と処置を頭に入れておきましょう。
涼しい環境への避難
熱中症の症状が見られたときには、まずクーラーが効いた室内などの涼しい環境に避難させることが大切です。近くに建物などがない場合は、風通しのよい日陰を探して移動させましょう。
脱衣・冷却
熱放散を促すために、きついベルトやネクタイなどを緩めて、風通しをよくしておきます。露出した皮膚に水をかけたり氷のうを当てたりして、直接的に体を冷やすのも効果的です。
体温の冷却は重症者を救命できるかどうかに直結するため、できるだけ早く取り掛からなければなりません。救急車を要請している場合でも、到着前から冷却を始めることが大切です。
水分・塩分補給
自力で水分補給ができる場合は、冷たい水を速やかに飲んでもらいましょう。発汗で失われた塩分を補給するために、経口補水液やスポーツドリンク、0.1~0.2%程度の食塩水を飲ませるのも有効です。
ただし、意識障害が見られたり、呼びかけや刺激に対する反応に異変があったりする場合は、誤嚥の危険性があるため経口による補給は望ましくありません。また、吐き気がある場合も、胃腸の動きが鈍っていると考えられるため経口補水は避けましょう。
医療機関への連絡・搬送
意識障害などによって自力で水分摂取ができない場合は、速やかに医療機関へ運び、点滴で補給する必要があります。熱中症での死亡事例では、「休ませて様子を見ていたところ容態が急変した」というケースもあり、安易な自己判断は大きなリスクにつながります。
呼びかけに応じないなどの異変が見られる場合は、速やかに医療機関に連絡をし、救急要請を行いましょう。また、救急車を呼ぶべきかどうか迷う場合には、「#7119」を利用し、医師や看護師などの専門家の指示をあおぐのも有効です。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:熱中症の主な症状は?
A:軽度のものではめまいや立ちくらみ、・筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)、手足のしびれが主な症状として挙げられます。中程度になると頭痛や嘔吐、さらに重症化すると意識障害や内臓障害が起こり、死亡・後遺症といった重篤な事態に発展する可能性があります。
Q:暑さ指数(WBGT)とは?
A:気温や湿度、風速、輻射(放射)熱を考慮した温度の指標であり、「熱中症のなりやすさ」を示した数値です。一般的に「作業者が熱に順応していない」「作業強度が高い」「風がない」ほど、基準値(熱中症のリスクが高くなる気温)が低くなります。
Q:熱中症が疑われたらどんな応急処置が必要?
A:まずは涼しい場所へ避難させ、脱衣と冷却を行って速やかに体温を下げます。このとき、意識がない場合はすぐに救急車を呼び、到着するまでの間に応急処置をスタートさせましょう。また、救急要請の判断に迷う場合は、「#7119」を利用して専門家のアドバイスを受けるのも有効です。
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